榊貴美は、自然が持つ美しさや厳しさ、そして子ども時代の記憶や物語の断片などを織り交ぜながら、「こども」という存在を鏡や装置として描く独自の作品世界を築いてきました。シリーズごとに異なる問いを抱えつつも、互いに呼応し合うような構成で、深い思索と感性が織りなす表現が特徴です。
今回のインタビューでは、創作の原点や作品に込める思い、影響を受けた作家について、お話を伺いました。
榊貴美 Sakaki Kimi
1983 和歌山県生まれ
2010 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻 卒業
2012 東京造形大学大学院造形研究科造形専攻美術研究領域 修了
自然のみせる美しさや厳しさ、そこに流れる空気や音や時間等の日常。まわりに存在する境界と、寝る前に聞くたくさんの物語。様々なものが呼応して混ざり合った様な感覚を楽しみながら幼少期を過ごす。
「こども」という存在(アイコン)を、様々な事物とともに、表現の器、鏡のような装置として描く。
国内外で展覧会等多数。個人としての作品発表と並行し、2012年にクリエイティブユニットS+N laboratoryを結成。主に参加型アート作品等を展開。2019年には「おにのこ」等を収録した作品集「KIMISAKAKI twinkle」を出版。同時期に佐藤美術館での展覧会開催、きらきらちゃんシリーズのスタート。2023年個展「このくらやみのなかで」よりLittleシリーズを展開。その他、Blindfoldシリーズ、使者たちシリーズ、Love me シリーhttps://tagboat.tokyo/artistinterview/kimisakakiズ、むかでごっこ等のごっこ遊びシリーズ等、シリーズ展開をおこなう。
現在取り組んでいるテーマやシリーズについて教えてください。
前回のインタビュー以降では、Littleシリーズや、Overflowシリーズ(little princess)が生まれました。
前回のインタビュー>>
「このくらやみのなかで、本当に守るべき大切なものって何なのだろうか?」という問いのなか始まったlittleシリーズは、コロナ禍に制作を開始し、『このくらやみのなかで』という2023年の展覧会で濃紺の背景で描いた動物フードのシリーズ作品としてスタートしました。
Overflowシリーズは、はじまったばかりのシリーズで、自分でもまだ探りながら進めているところです。
「目は口ほどにものをいう」という言葉があるように、日本には、古くから、非言語的なコミュニケーションとして、言葉にしないこと、沈黙の中に意味を込める独特の精神文化がありますが、そうした「語られないもの」、隠された感情や思考、思想、祈りや願いのようなものが、(意思をもった生き物として)目からあふれだす、こぼれ落ちる、そうしたイメージが一要素となり立ち上がってきた作品です。
制作のインスピレーションはどのように得ていますか?
世の中を俯瞰的にみることで気づきを得ることもあれば、身近な存在、今であれば、子どもの何気ない言動がきっかけとなったり、ヒントになることも。
例えば、子どもには、大人が失った独自の世界がありますよね。大人は「意味」や「理論」にとらわれてしまいがちですが、子どもは世界とまだ直接つながっていて、そんな瞬間に触れると自分の中の感覚の底が揺さぶられたりして、新しい視点が生まれたり、そこを起点に作品が立ち上がったりしているのだと思います。
時には社会や文化、自然の営みを俯瞰して眺めることで、普遍的なテーマや問いかけが生まれることもあります。そうして得た断片的な思考や感情を繋ぎ合わせながら、作品へと昇華させています。
写真:Littleシリーズの着想や、overflowシリーズの着想の一コマ(着ぐるみのカバーオールで眠る0歳頃の娘の姿を見て/3歳の娘の絵と机に描かれた落書き)
作品を発表する際に特に意識していることはありますか?
特に・・ということではないのかもしれませんが、シリーズで作品をつくるようにしています。一つの作品で完結しない、続いていくような、また、シリーズ毎を超えてつながっていくイメージは意識しているかなと。また、匿名性や普遍性を持たせる事なども意識したり、 “余白”のようなものも大切にしています。
作品はどのような技法や素材を用いて制作していますか? 制作プロセスについても詳しく教えてください。
主に白亜地パネルに油絵具とアクリル絵の具を用いて制作することが多いです。
下地づくりは地味に大変なのですが、平滑な面づくりとして欠かせないので丁寧に進めています。また、基本的に筆や刷毛、ローラーなどでそのまま描きますが、アクリル絵の具を塗り重ね、削り出す工程をふむ作品等もあります。
作品の構想段階では、イメージをラフに描いたり、言葉で残したり、案を立ちあげて、調べたり、下準備したり・・。それらの断片から、ゆっくりとかたちを組み立てていくようなプロセスです。
制作工程も、描いて乾燥させて描いてと工程を分けて時間をかけてじっくり制作するタイプなので、作品の完成までに割と時間がかかる方だと思います。
それもあり、複数の作品やシリーズを同時に進めることが多いのですが、それぞれが異なる問いを抱えながらも、どこかで連関していく瞬間があります。思考が交差するように作品たちのあいだに“見えない対話”が生まれていく。それを受け取ることも、私にとっての制作の喜びです。
影響を受けたアーティストや作品について教えてください。
文学作家になりますが、今回は『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリの話を。
あの物語が持つ、子どものような目線で世界を見つめるまなざしや、普遍的な世界観、洗練された寓意構造は、考えや表現において影響を受けた作品の一つです。
子どもの頃に初めて読み、それ以降年齢を重ねるごとにたまに読み返す作品の1つなのですが、このように絵本や児童文学、寓話などから影響を受けることも多いかなと思います。
「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。―しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。」
“Toutes les grandes personnes ont d’abord été des enfants. (Mais peu d’entre elles s’en souviennent.)”
7月11日(金)からギャラリーにてグループ展「Made in Child」を開催いたします!
「Made in Child」
2025年7月11日(金) ~ 7月29日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の7月11日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:7月11日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F